脚下照顧

 たしか作家の安部譲二氏だったか歯に衣を着せぬコラムに「今は他人との距離の分からない人が多い」と書いていた。これは面白い表現で距離とは個人と他人の関係だがこの街でも思い当たることがある◆いま電話やメールは殆どの外国と即座に通じる。国内では携帯とメールが全盛だ。技術力で時間と空間の距離は無いのに等しいが人の心はどうだろう◆京王線の駅。ガラスに囲まれた待合所で若い女性が手鏡を見ながら髪のスプレーを使った。匂いで居合わせた数人が辟易しても分からないようだ◆夏の昼下がり、涼しいので同じ場所に入ったら客が多く隅の方に空席が一つ。隣りで部活の帰途か母親と一緒の女子中学生が静かにシャカチキンを食べていた。座ると香りがするが本人は気付かないらしい。しかし何だかうまそうで、母子が控えめに寄り添う光景はそんなに嫌いではない◆急行電車が来るので携帯を使っていた男女や他のお客はホームに出たが少し離れた所にいた初老の女性が大声で「物を食べる場所ではないでしょ」と言う。なぜか母親は隣にいた筆者に「すみません」と言うので「うまそうですよ」と笑って告白する羽目になった。もうマナー違反はしないだろう◆ある店で遅い昼食を摂っていたら横にいた2人の中年女性客が大声で喋り続けて飯がまずい。他人の食事中などは全く念頭にないらしい。女性の多い時間帯でお喋りもいいが人前での音声レベルがおかしい◆思えば身内の娘や姪たちはどうなのだろう。距離の分かるマナーを先ず足元でよく確認しておこう。  (岩木 伸) 091001号掲載

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